時計の話をする前に、服の話をさせてください。
今季のテーラリングは細身に振れています
2026年秋冬のメンズコレクションで、いちばんはっきりしていたのがここです。
リラックスしたドレープやオーバーサイズも当然ありました。ただテーラリングに限れば、明らかに細身へ戻っています。ネクタイも復活していて、それも細身。コートの下に滑り込ませたり、トラウザーズに半分消えるような着方です。
一方でアウターは主役になっています。フルレングスのオーバーコート、肩の張ったジャケット、ボリュームのあるパファー。上は大きく、袖まわりは締まる。これが今季の骨格です。
袖口が細くなるということは、そこを通る物の上限が下がるということです。ここから時計の話になります。
カタログが出す数字は、いちばん効かない数字です
時計を選ぶとき、ほとんどの人はケース径を見ます。40mm、41mm、36mm。カタログでいちばん大きく書いてあるのがこの数字だからです。
ところが手首の上でどれだけ場所を取るかを決めているのは、径ではありません。ラグトゥラグ、つまりラグの先端から先端までの長さです。
実測値を並べます。
| 型番 | モデル | 径 | 厚み | ラグトゥラグ |
|---|---|---|---|---|
| 124270 | エクスプローラー 36 | 36.0mm | 11.6mm | 43.0mm |
| 126334 | デイトジャスト 41 | 41.0mm | 12.0mm | 47.5mm |
| 126610LN | サブマリーナ デイト | 41.0mm | 12.3mm | 47.6mm |
| 126500LN | デイトナ | 40.0mm | 11.9mm | 47.6mm |
| 126710BLNR | GMTマスター II | 40.0mm | 12.1mm | 48.5mm |
| SBGA211 | GS スノーフレーク | 41.0mm | 12.5mm | 49.0mm |
デイトナとGMTマスターIIを見てください。どちらもケース径は40mmです。カタログ上は同じ大きさに見える。
しかしラグトゥラグは47.6mmと48.5mmで、0.9mm違います。手首の上での占有面積が違うので、着けたときの印象も変わります。
もっと分かりやすいのがグランドセイコーのスノーフレークです。径41mmはデイトジャスト41と同じですが、ラグトゥラグは49.0mm。この表の中でいちばん長い。径だけ見て「デイトジャストと同じくらい」と思うと、実物で驚くことになります。
厚みは別の話です
厚みが決めるのは、袖口を通るかどうかです。
目安はこうなっています。10mm以下なら薄型で、シャツやジャケットの袖口に引っかかりにくい。11mm以内が「薄さ優先」で探す場合の一般的な上限。14mmを超えると袖に干渉しやすくなり、これはダイバーズやクロノグラフに多い厚みです。
この基準で見ると、デイトナの11.9mmはクロノグラフとしてむしろ薄い部類です。袖口の通過に問題は出ません。厚みで敬遠する必要はない。
今季の課題は「入らない」ではなく「合わない」です
細身テーラリングの年に効いてくるのは、袖口を通るかどうかではありません。袖口から覗いたときの比率です。
細い袖から47.6mmが出てくると、そこだけ寸法が合わない。厚みが問題ないぶん、余計にラグトゥラグの長さが目立ちます。
エクスプローラー36の43.0mmは、この表の中で唯一4mm以上短い。今季のシルエットといちばん相性がいいのはこれです。36mmという径の小ささ以上に、ラグが短いことが効いています。
でも、こういうスタイルが好きなら話は別です
ここまで書きましたが、逃げ道はあります。
ゆったりしたテーラード、肩の落ちたジャケット、開いた襟。あの様式に大ぶりの時計は正解です。袖幅が広ければ、ラグトゥラグ48mmでも49mmでも比率の問題は消えます。
今季のトレンドとは真逆ですが、それはそれで完成された型です。トレンドは「いま多数派がどこにいるか」の話であって、「何が正しいか」の話ではありません。明確な様式を持っている人は、流行の外にいて構わないと思っています。
実際、スティーブ・マックイーンはサブマリーナ5512を繰り返し着けています。バイクレースでも、車をいじっているときも、ただ座っている写真でも。あの空気に惹かれて時計を選ぶなら、それは十分すぎる理由です。流行がどちらを向いていようと関係ない。僕はそういう選び方を、いちばんカッコいいと思っています。
なお、僕としては
数字の話をしておいて何ですが、最後は好みです。
僕は黒文字盤を選びます。白のほうが人気で価格も上ですが、それは分かったうえで黒にする。理由は服に馴染むからです。白文字盤は手元で光る。それが良さでもあるんですが、僕は手元が主役になりすぎるのが好きじゃない。
シェルやメテオライトのような石系の文字盤も好きです。あれは唯一無二なので。
ベルトも、ブレスからレザーに替えることが多い。ラグトゥラグは変えられませんが、質量感は変えられます。細身テーラリングとの相性も上がる。時計を買い替えずに済む方法として、これがいちばん安い。
好みの話なので、あまり論理で説明する気はありません。黒が好きです。
※ 寸法はメーカー公表値および各社の実測値に基づきます。測定方法により0.2〜0.5mm前後する場合があります。 ※ コレクション情報および俳優の着用に関する記述は、公開されている報道に基づきます。実物は確認していません。